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このひとの言語感覚は、硬質で透明
硬質で透明な短編集
世界中、さまざまな場所を舞台につむがれる短編集。

それぞれの土地の空気が物語ひとつひとつに閉じこめられて、写真集を眺めたような読後感。

このひとの言語感覚は、硬質で透明。

「20マイル四方で唯一のコーヒー豆」なんて、タイトルだけでノックアウトだ。

表題作「きみのためのバラ」。

ウナ・ローサ・パラ・ティというスペイン語のひびきがすてき。

「これから百年でも忘れないという気持ちで彼女の顔を見て」という一文にぐっとくる。

それって恋の本質だよなあ。

それにしても、これだけ多彩な語り手を持つ小説を、それぞれに合う自然な文体で書きわける技のあざやかさよ。

おそれいりました、という感じ。

真の意味での名作とは
映画マニアのはしくれである自分にとって池澤氏は、ギリシャの巨匠テオ・アンゲロプロス作品の字幕翻訳(彼自身とも親交が深い)としての方が馴染み深い。

世界各地を舞台に、出会いと人生をテーマとして綴られる物語。

文学的な修辞や技巧を省いた、直接的とも言える話法は、高名な肩書きからは拍子抜けする程の読み易さだ。

しかしそれはあたかも、制球力に長じたベテランピッチャーの円熟した投球術、あるいは好守備をファインプレーに見せない名野手のフィールディングを思わる、力強い安定感を思わせる。

なおかつ味わいを感じさせながら、淀み無く一気に読ませる風通しのいい文体がいい。

ヒューマンストーリーの良心を見るような作品群である。

個人的には「全ての結婚は国際結婚のようなもの」という言葉が真理を突いているようで耳に痛い(笑)「ヘルシンキ」、若かりし日の米大陸一人旅(現在の妻とのドイツ旅行での、同じ場面から始まるという導入部がいい)のメキシコ人少女との切ない解逅を描いたタイトル作(こんな引用も何だが、まるで昔聴いていた「クロスオーバー・イレブン」のストーリー・テリングもかくやだ)が秀逸。

その中で、まるでライトノヴェルのように呆気無い「レギャンの花嫁」がやや場違いだが、初出元がレジャー情報誌だからしょうがないか。

旅の断片
久々の短編集。

テーマを絞ったものではなくて、スケッチのように何種類かの光景が描かれている。

なんでもない光景から物語を感じ取ることができる。

これも旅をすることの醍醐味。

日常から離れることで、日常を認識することができる。

日々の生活に追われていると、ぼくらの感覚は麻痺してしまうのかもしれない。
きみのためのバラ池澤 夏樹
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