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知的に再現された失われた時代の姿
元教師の誠意を感じさせる強い思い
ベッキーさんシリーズ2作目。
全3部作で、もちろん順番通り読むのが望ましいのですが、この真ん中が一番出来が良い巻になっています。

右翼の物言いに、日教組が日本をダメにしたという話がありますが。
少なくとも戦争反対の面では、教師たちは左翼的なおもわくでもなく(当然だ、共産国家にだって軍隊はある)、資本主義批判でも、平等思想でもなく、ただただ子供を死なせたくないという思いで行動したのだと、その切々とした気持ちが伝わってくる内容です。
作者が元教師で、教師だったからこそ長年徹底的に考えてきた事が、ぎゅっと詰まった、重い、重い、一冊です。

北村薫の描く少女は、美しすぎて嘘っぽいと思う人も多いようですが。
若者の多くが、ある面不器用なまでに美しい思いを抱えているという事実を、彼は教師という職業を通して、また父親として知ったのではないでしょうか。
そして、それを守りたいと切実に思い、しかし守ることの困難さも実感したのだろうと思うのです。

全ての若い女性のそばに、(彼女を守り、彼女を導く、分別ある年上の女性)ベッキーさんを一人ずつ置いてあげたい。しかしまた、その素晴らしいベッキーさんも、一人の弱い女性であり、できるなら彼女の側に彼女を守る素晴らしい男性にいてもらいたい。
それが北村薫の偽らざる本心だろうと思うのです。

天罰か
ベッキーさんシリーズの第2弾(全3巻)。
「幻の橋」「想夫恋」「玻璃の天」の3本の短篇が収められている。
ミステリとしては評価が難しい。「幻の橋」と「想夫恋」は箸にも棒にもかからないレベル。「玻璃の天」はアイデアは面白いが、うまく生かし切れていないように感じた。
しかし、このシリーズの主眼は、ミステリの部分にはないのだと思う。第二次大戦直前の日本の上流社会を幻想的に描くという点に力が入れられている。軍国主義的な傾向への強烈な批判が込められている。
しかし、それも好き嫌いが別れそう。私は苦手。

知的に再現された失われた時代の姿
女子学習院の生徒のお嬢様を主人公として描かれるのは,1933 (昭和8) 年の東京の上流階級の世界.作者は厖大な資料を駆使して,今では完全に失われてしまった社会を昨日のことのように描き出す.この時代の空気は,ここに書かれた通り,物言えば唇寒し所か,生命の危険さえある漠然たるテロの恐怖に満ちたものであった.その空気が実感できるのが作者の手柄である.私はこの恐ろしい空気の中を生きただけに,作者に感謝したい.それと日本の古典文学,中華の漢文文書に対する教養は,この時代の初等中等教育の水準の高さの結果であることに注意したい.戦後の学制改革,教育改革は本質的に敗戦国の教育水準を下げる企みで,その結果が現在の嘆かわしい状態なのである.貴族階級が亡びるのはよいとしても,知的水準までが亡びるのは口惜しい.そういうことをこのお嬢様シリーズは痛感させてくれる.強く推薦.なお,会話の応答で,返す,という表現はこの時代ではあり得ない (お言葉を返すようですが,と言って反論する時に限る).それから食材という言葉はなかった.強いて言えば素材か材料だろう.難点はその程度で,真に見上げた時代再現である.

玻璃の天 (文春文庫) 北村 薫

イルビゾンテ
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